城中の中にひとりの美女がいた。この人は則任の妻であるが、厨川の柵が落ちる時、三歳になる息子を抱き、ひとり夫の則任に叫んで言った。
「わが君よ。今あなた様はまさに死を目の前にしておられます。この先、私ひとりで生きていくことはできません。あなた様より先に死のうと思います」
そして幼子を抱きながら、自ら深い崖に身を投じて死んでしまった。まさに節操のある気性の激しき女性(烈婦)というべきである。その後、日を置かず、貞任の伯父安倍為元(字は赤村の介)と弟の家任が自首してきた。さらに数日後、宗任ら9人も官軍に投降してきたのであった。